こんにちは。コンバージングテクノロジー研究所の烏谷です。私たちの研究グループでは、初期がんの早期発見により5年生存率を向上させることを目指し、がん検出技術の開発を行っています。研究成果の一つを、IEEE WCCI 2024にて発表しましたので、その内容をご紹介します。
IEEE WCCI(The IEEE World Congress on Computational Intelligence)は、計算知能の分野で最大の技術イベントで、以下の3つの主要な会議が一堂に会します。
- the International Joint Conference on Neural Networks (IJCNN)
- the IEEE International Conference on Fuzzy Systems (FUZZ-IEEE )
- the IEEE Congress on Evolutionary Computation (IEEE CEC)
今年は、パシフィコ横浜で 2024年6月30日から7月5日まで開催されました。私はCEC(350件の論文が採択され採択率は52.63%)のバーチャルセッション Evolutionary Computation in Healthcare Industry で肝がん検出に関する論文発表を行いました。
この研究は、広島大学と富士通による共同研究の成果であり、専門家から「自分でも見逃しそうな小さな病変を見つけてくれる」との評価をいただけた技術です!
本研究の背景と目的
近年、3Dイメージング技術の進歩により診断精度が向上した結果、検査件数が増加するとともに、CTやMRIなどでは1検査当たりの画像枚数も増加しています。診断の正確性確保のため、通常は全ての検査画像を確認し、病変の有無を判断する必要があり、放射線診断医の負担が増加しています。医療画像の自動解析技術も発展してきていますが、肝臓病変の自動検出アルゴリズムは、まだ確立されていません。
従来の3Dパッチ(パッチとは小さな部分画像です)を用いた方法では、計算コストが高く、固定サイズのパッチを使うため、小さな病変の検出精度が低下するという問題がありました。
そこで、本研究では、まず3Dパッチを最小値投影法によって2Dパッチへ変換しました。これは3方向から見た血管や病変のシルエットを1枚の画像に転写しているイメージです。さらに、この2Dパッチを用いる軽量化したディープラーニングモデルを提案しました。 複数の大きさの2Dパッチを単一の軽量化モデルで使用することで、計算コストを削減しつつ、様々なサイズの病変を高感度で検出することを目指しています。
手法
具体的には、次のように処理をします。
- 複数のスケールで3Dパッチのサンプリングを行います(図のII Cの部分)。複数のスケールにすることで、異なるサイズの病変を適したサイズのパッチを使って検出することが可能になります。
- 次に、3Dパッチを最小値投影法を使って3チャンネルの2Dパッチに変換します(図のII Bの部分)。これによって、2D-DCNNモデルを利用できるようになり、計算コストを抑えられます。
- これらのパッチを2D-DCNNモデルに通してスコアを得ます(図のIII Aの部分)。学習はスケール別にせずに単一のモデルで行っています。
- 複数のスケールでのスコアをメディアンフィルタで統合します(図のII Dの部分)。メディアンフィルタを使うことで偽陽性を抑制しています。
- 最後に統合したスコアから病変位置を推定します(図のVの部分)
実験結果
実験では、広島大学病院で撮影されたEOB-MRI(肝臓の病変をより明確に映し出す造影剤を使ったMRI検査です)のデータを使用し、31症例の526病変を学習データ、14症例の282病変を評価データとしました。提案した手法は従来の単一スケール法(1症例当たりの平均偽陽性数25で評価)よりも高い検出感度(0.72)を示し、特に1cm未満の微小病変に対しても感度0.64を達成しました。放射線診断医から最も実用的と判断されたのは、感度0.69(微小病変に対しては感度0.60)で1症例当たりの偽陽性数13.1のときでした。また、独自開発した軽量な2D-DCNNモデルを使用したことで、一般的なモデルに比べ学習時間が79%減と大幅に短縮されました。
今後は、臨床評価を行い、実用化を目指す予定です。詳細は下記論文をぜひご覧ください!
論文タイトル:Lightweight Detection Architecture Adapted to Small Lesions Using Multiscale Sampling Method
URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/10611948