こんにちは、データ&セキュリティ研究所の金子です。AMCIS2024に参加・発表してきたので、その内容を共有します。
AMCIS2024は情報システム系の学会
AMCISは、情報システム分野の最新研究発表や情報交換を行う、アメリカにおいて最大規模の学会です。デジタルエクイティ(デジタル技術への平等なアクセス)やサイバーセキュリティ・プライバシーをはじめとして、急速に進化するデジタル時代における課題と解決法を様々な角度から考えるのが本学会の目的です。今年は生成AIに関する研究が注目を集め、生産性向上やビジネス価値、誤情報の拡散に関するトピックの発表がありました。
急速に進化するデータの管理システムも本学会のトピックの一つです。私は2024年6月まで1年ドイツの大学に客員研究員として滞在して、データスペースのリスクガバナンスを研究していました。データスペースとは、異なる組織や業界が安全かつ効果的にデータを共有するための共通インフラやフレームワークを指します。
EUでは、ここ2, 3年でデータガバナンス法やデータ法といったデータ規制が次々と成立しています。これらは、公正にデータ共有を進めるための仕組みであり、EUは、併せて欧州共通データスペースという、EU全体でデータの共有と利用を促進するための、統一されたデータのエコシステムを構築しています。その政策は世界中に波及しており、日本とも、日・EU経済連携協定(EPA)に「国境を越えたデータ流通に関する規定」を追加するなど、国を超えたデータ連携が進んでいます。
私は、データスペースのリスクガバナンス、特に欧州のデジタル規制がデータスペースに与える影響を研究しており、研究の成果を発表するためにAMCIS2024に参加しました。
Christian Kurtz氏の発表 “From Opacity to Transparency: Legal Spotlight on Ecosystem Architectures”
私が興味深く聴講したのは、Christian Kurtz氏の発表 “From Opacity to Transparency: Legal Spotlight on Ecosystem Architectures” です。彼は、Socio-techno-legal modeling approachという、技術的なシステムやインフラを分析する際に、社会的・法的な側面も同時に考慮する手法を用いています。本研究では、Webサイトの分析を介して複雑なデジタルビジネスエコシステムの構造と動作を体系的に分解して、アクター、サービス、データ、ITインフラストラクチャ間の関係を可視化しています。そして、実際にeBayとGoogle Newsにおいて、情報システムの専門家と法律の専門家が協力して、EU GDPR(EU一般データ保護規則)の問題点を分析したのケーススタディを紹介してくれました。
この学際的なフレームワークは、技術の専門家と法律の専門家の協働を促進して、これまで見過ごされてきたデジタルエコシステム内の法的な曖昧性や違法性を明らかにするのに役立つと考えられます。 私自身も、規制とデータスペースとの関係性という学際的なテーマを扱っており、しばしば評価の困難さにぶつかります。本研究は、分析プロセス・結果をより明確に示せており、学際的な研究の推進に参考になる研究であると感じました。
欧州規制のデータスペースへの影響について発表
私の発表テーマは、データスペースにおける法規制適合性の評価です。データスペース構築における法規制への対応という課題に対し、既存の標準的なデータスペースの構成を用いて、インタビュー結果や法的要件のマッピングを行いました。その結果、法的要件、インタビュー結果とデータスペースの構成に一致点、ギャップ、矛盾点があることを確認しました。特に、トラストフレームワークやデータサービスの説明においては、法的要件と専門家の認識にずれが見られました。このかみ合わないところを放置しておくと、データスペースに法的要件に沿っていない部分が残されてしまいます。これらのギャップを解消し、データスペースの法規制適合性を高めるための具体的な方法が検討されるべきと結論付けています。
会場からは、専門家インタビューにおける規制の用語の不明確さの例にはどういうものがあったのか(例えば、「中立性」、「仲介者」などに不明確さがありました) など、多くの質問をいただき、議論を行いました。特に、実際のデータ交換の文脈を想定している質問が多く、規制の影響を考えるために、つねに具体的文脈も考慮に入れて研究を進める必要性を改めて認識しました。
発表内容の詳細については、右のリンクからご欄になれます:European Data Regulation Requirements for Data Spaces
現在の研究への結び付き
今回の学会参加を通して、自身の研究について議論を深めるとともに、情報システム分野の最新動向を把握することができました。海外での本分野の学会参加は初めてでしたが、関連する多くの研究者の方々と交流できたことは、今後の研究活動において大きな刺激になりました。現在、主業務として行っているのは、産業データの共有に関する研究ですが、今回の発表で得られた知見も活かすことができています。複数の研究の相乗効果を狙いつつ、今後も積極的に学会に参加し、研究成果を発表することで、社会に貢献していきたいと考えています。 私の小さな体験談ですが、AMCIS参加を検討されている方の参考になれば幸いです。