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fltech - 富士通研究所の技術ブログ

富士通研究所の研究員がさまざまなテーマで語る技術ブログ

錯体化学会第74回討論会に参加・発表しました ~半導体プロセスを化学分析する!~

(English version is here: Reports on the 74th Conference of Japan Society of Coordination Chemistry: Chemical Analysis of Semiconductor Processes - fltech - 富士通研究所の技術ブログ)

こんにちは。デバイス&マテリアル研究センターの大津博義です。2024年9月18日から20日まで、岐阜大学および長良川国際会議場で開催された錯体化学会第74回討論会に参加、発表してきました。その中で、化合物半導体プロセスの化学分析に関する成果を発表しましたので、学会の内容と発表内容を紹介します。

錯体化学会 ~錯体化学って何?~

錯体化学会は錯体化学という化学の一分野に特化した学会です。

みなさんは錯体ってご存知でしょうか?実は身近にありふれています。例えば身体の中を巡る赤い血、この赤色はヘモグロビンの鉄"錯体"の色です。他にも植物の葉など、いろいろなところに錯体が存在します。この錯体というのは金属イオンに有機分子(配位子といいます)がくっついて存在する分子の総称のことで、イメージをヘモグロビンの鉄錯体と一緒に図にしました。

そんな”錯体”ですが、金属部分と有機分子部分、さらにその複合化による機能が注目され古くから研究されています。例えばシスプラチンという抗がん剤は白金(Pt)の錯体です。白金ががん細胞にくっつくことで抗がん作用をもたらします。このように特徴的な機能を出すため、様々な錯体が研究されているのです(錯体化学)。その錯体を研究しているのが錯体化学会で、アカデミアがメインですが、正会員、学生会員あわせて1000名弱の会員を有しています。

さて、今回参加した錯体化学会の討論会では、そんな”錯体”をキーワードにした研究が発表されています。化学分野らしく、新規錯体の合成や錯体の機能から応用に至るまで、幅広いセッションが同時並行で行われています。錯体の分子構造と物性の関係などの基礎学理追求型の発表が多いですが、応用面を意識した機能としての潮流は、二酸化炭素の還元触媒や、Metal Organic Frameworks(MOF)と呼ばれる細孔材料による二酸化炭素などの吸着材料など、サステナブル社会へ向けた環境調和型の材料の発表も増えてきています。

そんな中、この学会で、私は化合物半導体プロセスの化学に関する成果を発表してきました。これは、化合物半導体の一つあるGaSb(ガリウムアンチモン)基板のウェットエッチングプロセスによっておこる化学を明らかにし、そこにかかわる”錯体”に関して研究した内容となります。

半導体プロセスを化学する!~半導体プロセス中の錯体の存在~

化合物半導体はSi半導体では到達できない性能を示すため、高電子移動度トランジスタ(HEMT)や赤外吸収素子などに使われています。そのデバイス特性はデバイス構造だけではなく、半導体プロセスによっても影響されます。特にウェットエッチングによる性能への影響が大きいため、ウェットエッチングで何が起こっているのか化学的に分析することは今後の性能制御に指針を立てるために重要です。そこで、今回は化合物半導体としてGaSbを選び、そのエッチング溶液での挙動を実験的に解明しました。

その手法は比較的単純で、GaSb基板をエッチング液に浸漬して、その溶液状態を様々な化学分析により観測するというものです。 実際にGaSb基板をエッチング液に浸した溶液を吸収スペクトルや質量分析、電気化学測定などを行うことにより、アンチモン(元素記号Sb)の錯体が形成されていることを明らかにしました。 じつはエッチング液に入っているクエン酸がキレート剤として錯体形成の役割を果たしています。クエン酸はレモンにも入っている化合物で、これが錯体形成のもとになっています。皆さんも台所やお風呂で洗浄剤として使ったことがあるかもしれません。これも錯体形成の機能を利用しているものです。

 

今回の発表はポスターで行い、錯体化学にかかわる先生方や学生さんと有意義なディスカッションを行い、刺激になりました。 今後は議論の内容を研究に活かして、デバイス性能と錯体形成の関係性の解明を目指します。

  • 発表タイトル:GaSb基板のエッチング溶液内挙動, 錯体化学会第74回討論会, 3PF-22

錯体化学の潮流:グリーン材料をめざして

 錯体化学は基礎的な学問ですが、将来使える技術の種を育てています。現在、その大きな潮流がサステナブル社会に資するグリーン材料です。例えば温室効果ガスである大気中の二酸化炭素を燃料である石油に変えるための触媒や、熱を電気にするための熱化学電池材料のための素材など様々な材料の研究がなされており、今後の展開が楽しみな分野です。これは、金属イオンと有機化合物の協奏的な機能が発現する錯体ならではの特長が役立つことが期待されるからです。

さいごに:岐阜への訪問

 今回、学会への参加のため、岐阜大学と長良川国際会議場を訪れました。岐阜は名古屋から20分とアクセスのよい場所です。岐阜は天下布武の織田信長のイメージが強いですが、まさしく岐阜城は周りを見渡せる好立地です。岐阜城を眺めながら、周りの見晴らしが大事なのは研究も同じだということを実感しました。写真は長良川国際会議場から見た金華山の上にちょこんとみえる岐阜城と長良川です。