こんにちは、コンバージングテクノロジー研究所の妙見と畠添です。私たちは脱炭素化や海洋環境の保全への貢献が期待されるブルーカーボン生態系 [*1] の環境保全などに対して、「高品質・迅速な海洋環境可視化」や「多面的な施策立案・実行」の支援を行える技術を開発しました。これらの技術を活用して高品質なJブルークレジット® [*2] の認証を取得しました [*3] 。今回は、「高品質・迅速な海洋環境可視化」を構成する技術ついてご紹介します。
はじめに
私たち富士通は持続可能な成長に向けたマテリアリティ(重要課題)の1つとして地球環境問題の解決を掲げ、気候変動(カーボンニュートラル)や自然共生(生物多様性の保全)に取り組んでいます。その一環として、海洋の状態をデジタル空間上に再現し変化を予測する海洋デジタルツインの研究開発を進めています。特に、カーボンニュートラルや生物多様性保全に繋がると期待されるブルーカーボンおよびブルーカーボン量を計測・定量化し、クレジットとして取引を行うブルーカーボンクレジットに着目しています。現状、ブルーカーボンクレジットを作成するには、潜水士による潜水調査や専門家による分析作業を要するため、多大な時間がかかることが課題となっていました。さらに、海中の濁り、波、海流など海洋特有の厳しい環境や、取り扱う海洋のデータが膨大となるといった理由から、人手による計測や認識・定量化の精度確保には限界がありました。
この課題を解決するために、海流の中でも安定してプラスマイナス50cm以内の位置精度での海中データ計測を実現する「水中ドローン自動航行制御技術」、海中に群生している海藻・海草の種類と被度 [*4] を85%以上の高精度で認識する「藻場 [*5] 定量化技術」の2つの要素技術を開発しました。そして、これらの技術を活用して100倍高速(1haあたり約30分)に計測・定量化してブルーカーボンクレジットの認証取得を支援するエンドツーエンドシステム [*6] (以下、本システム)を構築しました。

開発技術
1.水中ドローン自動航行制御技術
長年培ってきたロボット・HDD(Hard Disk Drive)等のハードウェア開発における制御技術や知見を応用し、水中ドローンの自動航行技術を開発しました。この技術は、海流や複雑な地形による揺動の影響を受けることなく、水中ドローンが海中を自動的かつ安定して航行することを可能にします。具体的には、マップ上で指定した計測経路に沿って、水中ドローンをその経路から位置誤差プラスマイナス50cm以内の精度で安定して航行でき、岩礁近くなども含めて漏れなく計測が可能です(図2 参照)。これにより、海中データの迅速・自動的な計測を実現しました。

水中ドローンの位置制御は、目標値(緯度、経度、方位、海中高度の4方向)と水中ドローンの現在位置・姿勢情報との差分に基づき、4方向それぞれで独立したPID制御 [*7] を行います。特に緯度経度方向については、水中ドローンの実速度とモデル速度の差分から海流外乱を推定し、それを事前に制御系に加えることで、海流の影響を効果的に低減しています(図3. 参照)。

2.藻場定量化技術
濁った海中においても、海洋生態学とコンピュータービジョンの融合で海藻・海草の種類・被度を認識・定量化する技術を開発しました。海中の濁りによって色や輪郭が不明瞭になった画像から鮮明化技術で対象物の色や輪郭を回復できるだけでなく、鮮明化した対象物の形状や色などから海藻・海草の種類や被度を85%以上の高精度で認識できるようになりました。さらに、藻の種類や被度などによるブルーカーボンの吸収量を数理モデル化した技術により、繁茂エリアのブルーカーボンの定量化も実現しました。複数の藻種が混在している条件下(図4 参照)での認識にも対応し、日本の海域の80%をカバーすることが可能になりました。

具体的には、海藻・海草から0.5m以内の近距離で撮影した画像に鮮明化処理を施し、鮮明な画像から海藻種ごとに自動分類の基準となるクラス別特徴マップを作成。このクラス別特徴マップと撮影画像を比較・分類した結果と、Segment Anything Model [*8] をファインチューニングすることで、被度を高精度に認識することが可能な深層学習モデルを構築しました(図5 参照)。

今後の展望
今後は、開発した技術や本システムの実海域への適用に取り組み、各地域の自治体や地元企業などと連携し、各海域での藻場の回復・保全やJブルークレジット®認証取得での活用を進めて、ネイチャーポジティブの実現を目指していきます。また、脱炭素化への期待が高い洋上風力発電など海洋インフラの点検や、海洋工事の前後における環境調査など、開発した技術の適用領域を拡大します。このように、海洋デジタルツインの技術進化を進めるとともに、カーボンニュートラルや生物多様性保全などの活動に取り組む企業や自治体・団体とのパートナーシップを構築し、2027年までに環境保全と経済成長を両立するビジネスの実現を目指します。
関連リンクと脚注
- PRESS RELEASE 藻場のブルーカーボンを効率よく定量化する海洋デジタルツイン技術を開発し、Jブルークレジット®認証を獲得
- Fujitsu Research Portal 海洋活用施策でネイチャーポジティブ実現
*1:海洋におけるCO2の吸収・蓄積を行う生態系。例:藻場(海藻・海草)や塩性湿地・干潟、マングローブ林
*2:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合がブルーカーボン活用プロジェクトを対象に発行するカーボンクレジットの一種
*3:宇和島発!漁協・地域・自治体が連携したアマモ再生ブルーカーボンプロジェクト
*4:海藻・海草が海底の地表を覆っている面積の割合
*5:海藻や海草が繁茂している場所
*6:プロセスを最初から最後まで一気通貫で管理するシステム
*7:自動制御を行う際に最も多く利用されている制御手法の一つであり、参照入力(目標入力)と出力の偏差の各時刻での値に基づいて制御入力を決める手法
*8:S. Lian et al., “Diving into Underwater: Segment Anything Model Guided Underwater Salient Instance Segmentation and A Large-scale Dataset,” ICML, 2024.