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顧客対応スキル向上に向けた 「リフレクションAIコーチ」の実証実験を開始

こんにちは。コンバージングテクノロジー基礎PJの岩崎と吉岡です。今回は、私たちが取り組んでいる、行動変容によるスキル定着化の研究開発の事例をご紹介します。

はじめに

本記事では、顧客対応スキルの定着を支援するAI技術「リフレクションAIコーチ」の開発と実証実験について紹介します。本技術は、心理学理論に基づく信頼形成評価モデルと個別最適化された内省支援技術を組み合わせることで、従業員が自身の応対を自律的に振り返り、行動変容を継続的なスキル定着へとつなげることを目指しています。 現在、コールセンター業務を対象に、パーソルコミュニケーションサービス株式会社様と共同で実証実験を進めています。

求められる高度な対人スキルと育成の課題

電話応対などの顧客対応業務では、限られた時間の中で、顧客の問題を解消することに加えて、対話を通じて顧客との信頼関係を構築する高度な対人スキルが求められます。しかし、多用な顧客・問合せに対応するためには、座学研修やマニュアルだけでは十分ではなく、実務を通じた経験と継続的なフィードバックが不可欠です。

現在は主にマンツーマン指導による育成が行われていますが、指導者の負担が大きく、スキルの定着や品質の均質化が課題となっています。その結果、対応品質のばらつきや顧客との関係悪化といったリスクが生じています。

開発技術「リフレクションAIコーチ」

このような背景から、顧客対応のスキルを向上、定着させるための技術として「リフレクションAIコーチ」を開発しました。AIを用いて各従業員の日々の業務振り返り(=リフレクション、内省)を支援することで、継続的なスキル改善・定着を目指しています。

「リフレクションAIコーチ」には、2つの技術が活用されています。1つは、対話信頼形成評価モデルで、顧客対応ログを分析することで、信頼形成行動が不足している箇所を抽出します。もう1つは、パーソナライズド内省支援技術で、抽出された箇所についてAIが提案や質問を生成して振り返りを支援することで、改善方針を具体化し実践しやすい形をつくります。

対話信頼形成評価モデル

「リフレクションAIコーチ」の中核となるのはとなるのは、心理学的な対人信頼の理論を応用し、顧客との信頼形成状態を対話構造として評価するモデルです。 本モデルでは、対話を発話単位で解析し、共感や提案といった信頼形成に寄与する行動の有無やタイミングを時系列で捉えます。

従来の顧客対応改善の方法は、怒りや不満が顕在化した後の対応に焦点が当たりがちでしたが、本モデルは、表面上は問題が発生していない対話であっても、信頼形成に必要な行動の不足や偏りを検出できる点に特徴があります。 これにより、不満が顕在化する前段階での改善や介入を可能にすることを狙っています。

信頼形成行動に基づく感情予測技術

この対話信頼形成評価モデルの一部については、国内会議 HCGシンポジウム2025 にて発表しました。 この研究では、顧客応対を行う従業員がとる信頼形成行動が、その後の顧客感情に影響を与えるという仮説に基づき、数ターン先の顧客感情を予測する手法を検討しています。

信頼形成行動に基づく感情予測のイメージ図

具体的には、対話履歴を入力として、大規模言語モデルを用いて信頼形成行動の有無を自動ラベル化し、顧客側の感情情報と組み合わせて機械学習モデルを構築しました。 その結果、従来の感情予測技術のような、顧客の感情情報のみや一般的な発話タイプのラベルのみを用いた場合と比較して、信頼形成行動を特徴量として加えることで、特に「怒り」感情の予測精度が向上することを確認しました。 また、3〜5ターン先といった中長期の予測においても、性能低下が比較的緩やかであることが示されました。

パーソナライズド内省支援技術

もう一つの要素技術として、対話評価の結果をもとに、従業員が自身の判断や行動を言語化しながら振り返る「内省」を支援する仕組みを検討しています。 本技術では、対話信頼形成評価モデルを応用し、信頼形成行動の実施状況などを踏まえて振り返りの観点や深さを個人に合わせて調整することで、改善行動への納得感と定着性の向上を目指しています。この技術については、2026年6月8日から開催される、2026年度 人工知能学会全国大会(第40回)にて発表予定です。

実証実験を開始しました!

パーソナライズド内省支援技術は、2026年1月末からパーソルコミュニケーションサービス様の顧客応対業務を担う従業員を対象に、現場の実データを用いた約1か月間の実証実験として実施中です。 実証では、信頼形成行動の評価と内省支援が、顧客対応スキルの向上や行動変容の定着にどの程度寄与するかを検証しています。 より詳しい内省支援の方法や実証の結果などは改めてご紹介する予定ですので、ぜひ続報をお待ちください。