
こんにちは、コンバージングテクノロジー研究所の片桐です。
私たちは、行動や習慣に関する課題を解決するために、行動変容支援プラットフォーム Behavior Transformation Platform(通称 BXPF) の研究開発を進めています。
2026年3月に、このBXPFの成果の一部である 「行動変容プランニング」 を公開しました。公開に伴い、本特集では「行動変容プラットフォーム(BXPF)」について、全4回で紹介しています。
● 第1回 DXの次はBX? 行動科学を誰でも使える時代へ
● 第2回 人が動く施策を、エビデンスで設計する ★今回★
● 第3回 用途や個人に合わせて進化するアプリ
● 第4回 BXでイベントプロモーションはどう変わる?
第2回の本記事では、「行動変容プランニング」が課題に合った介入を提案している仕組みを解説します。
介入設計の重要性
この記事を読んでいる皆様は、日々の行動についてこんな課題をお持ちではないでしょうか?
- 朝起きるのが難しい
- 英会話の勉強が続かない
- 健康的な食生活を怠ってしまう
- 家族が健康のための運動を毎日続けてくれない
- 部下がなかなかセキュリティ講習を受講してくれない
もしかすると、読者の皆さんは「どれもやる気の問題では?」と思われるかもしれません。 もちろん、そういった側面もありますが、心理学や行動科学などの学術的な見地から、こうした課題ごとに合理的かつ有効性が証明された解決方法(行動変容させる介入方法)が報告されています[1,2]。 いくら頑張っても行動が変えられないのは、もしかすると、課題に合っていない介入をしているからなのかもしれません。 行動変容を効果的に引き起こすためには、科学的根拠に基づき課題を分析し、それに合った介入方法を選択すること(介入設計) が重要になるのです。
介入設計の基盤研究
近年の研究[3-10]により、介入を設計するためのツールが整備されてきました。その中から特に重要な3つの要素を紹介します。
介入設計の手順書
まず、介入を考えるための「手順書」が作られました[3-5]。例えば「IDEAS」というフレームワークでは、
- ①誰の、どんな行動を変えたいか決める
- ②介入の基盤となる行動理論を検討する
- ③理論に沿った介入を設計する
- ④試作品を作り、効果を確かめて成果を共有する
といった一連の進め方が定められています[5]。
介入方法のカタログ
次に、世の中に存在する介入を整理した「介入のカタログ」である 行動変容技法体系v1 (Behavior Change Technique Taxonomy v1: BCTTv1) が作成されました[6]。このカタログには、
- 「目標を立てる」
- 「やり方を具体的に教える」
- 「ご褒美を用意する」
といった93種類の介入が、一つ一つ明確な定義と共にリストアップされています。これにより、どんな介入があるのかを網羅的に把握できるようになりました。
行動原理と介入の対応表
最後に、「なぜその介入が効果があるのか」という要因は、心理学の各種理論や実験に基づいて体系的に整理され[7]、介入と紐づけされました[8-10]。この介入の結果である行動を引き起こす原因を 行動原理(Mechanism of Action: MoA) と呼び、現在26種類定義されています。例として、
- 「練習を通じて身につけた能力(スキル)」
- 「ある行動を実行できるという信念(能力に関する信念)」
- 「行動に目的や方向性を与える原動力(モチベーション)」
などがあります。
さらに、University College London の研究グループは、277本の関連論文から16人の専門家で行動原理MoAと介入技法BCTの関係を検証し、最終的に92種類の関係を有効性ありと定義しました[10]。

先行研究の課題
これまでの研究により、「介入設計の手順書」「介入方法のカタログ」「行動原理と介入の対応表」という3つのツールが整備されてきました。しかし、これらは理論的な整合性や体系化を重視して設計されているため、抽象度が高く、現場で直面する個別の具体的な課題に対して、どのような介入を選択すべきかを直感的に判断することは容易ではありません。
例えば、「運動を習慣化したい」という課題に対しても、「目標設定」「報酬の付与」「社会的支援の活用」など複数の介入方法が考えられますが、どの行動原理に基づいてどの手法を選択すべきかは一意に決まるものではありません。そのため、専門知識を持たない実務者にとっては、課題と行動原理、介入方法の関係を適切に対応付けることが難しく、実践への適用には依然として大きなハードルが残されています。
提案手法

私たちは、これまで実務上の大きな難所であった「具体的な課題から、どの行動原理(MoA)に着目すべきかを見極めるプロセス」に着目し、この部分をAIによって支援する仕組みを開発しました。 これにより、課題 → 行動原理(MoA) → 介入技法(BCT) という一連の介入設計プロセスを、より実践的かつ効率的に進められるようにしています。
具体的には、ユーザーが入力した課題に関する5W情報、すなわち「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」「誰が」実行したいのかというテキスト情報をもとに、行動課題の特徴を抽出し、26種類の行動原理(MoA)の中から、関連性の高いものを推定します。 従来は、この対応付けには行動科学や心理学に関する知識が必要であり、実務者が自力で判断することは容易ではありませんでした。そこで私たちは、この判断をモデル化することで、専門知識がなくても介入設計の出発点に立てるようにしました。
モデルの学習では、まずLLMをデータ生成器として活用し、専門家の知見も加えながら多様なユースケースを生成させました。次に、行動原理とユースケースの対応関係を学習データとして整備しました。このデータセットで学習させることで、モデルは実際の現場で想定される幅広い課題に対し、柔軟に推定を行えるようになります。
さらに、この推定結果を、先行研究によって整備されてきた「行動原理(MoA)と介入技法(BCT)の対応表」と組み合わせることで、富士通独自の行動変容支援プランニングのフレームワークを実現しました。 ユーザーは課題を入力するだけで、関連する行動原理と、それに基づく介入候補までを一貫して得ることができ、介入設計の入口でつまずくことなく、施策立案までをワンストップで進めることが可能になります。
提案手法の優位性
本フレームワークは、従来の専門家による介入設計や、汎用的なLLMによる提案と比較して、特に即時性と一貫性の2つの点で優位性を持ちます。
| 専門家 | LLM | 提案手法 | |
|---|---|---|---|
| 時間(即時性) | △ | 〇 | 〇 |
| 出力の一貫性 | 〇 | △ | 〇 |
第一に、即時性です。 専門家が課題を分析し、適切な行動原理や介入方法を検討するには一定の時間を要します。一方で、本フレームワークでは、ユーザーが課題情報を入力すると、そこから関連する行動原理と介入候補を即座に提示できます。これにより、試行錯誤の初期段階を大幅に短縮し、実務のスピードに合わせた介入設計が可能になります。
第二に、出力の一貫性です。 LLMは柔軟で豊かな表現力を持つ一方、同じ質問に対しても出力が変動しやすいという性質があります。これに対し、本フレームワークは、行動課題と行動原理の対応付けをモデルとして明示的に設計しているため、同じ入力に対しては常に一定の基準で推定結果を返すことができます。 この一貫性は、介入設計の再現性や説明可能性を重視する業務利用において、特に重要な特長です。
以上2つの優位性を活かすことで、結果を即座に得られるため、ユーザーは試行錯誤を繰り返しながら、上流段階での思考整理や施策立案に活用できます。 さらに、同じ入力に対して常に一貫した結果を返せるため、曖昧性を排し、再現性が求められるビジネス用途に適しています。 私達の技術はビジネス現場の実務に適した行動変容プランニングを実現したと考えています。
納得感の向上
さらに、私たちのフレームワークには副次的な価値もあります。それは、「なぜこの解決策が提案されたのか」という行動原理MoAをユーザーに提示できることです。 私たちが行った簡単な調査では、介入だけを提示されるよりも行動原理MoAも合わせて提示された方が、より介入を試したくなる傾向が見られました[11]。 つまり、ユーザの納得感を向上させる効果もあることが分かりました。

おわりに
本記事では、これまでの介入設計の研究成果の紹介と、未解決であった「課題と行動原理の紐付け」を解決する私たちのアプローチを紹介しました。 開発した行動変容支援プラットフォーム(行動変容プランニング)の最大のポイントは、専門知識が無くてもエビデンスに基づく介入設計を実現する方法を提供していることです。 Fujitsu Research Portalでは、行動変容プランニングを公開中です。ぜひご体験ください。
脚注と引用文献
脚注
- 本記事のイラストは、社内デザインセンター所属の福田有希が制作しました。
引用文献
- Eliana Carraça et al. (2021) Effective behavior change techniques to promote physical activity in adults with overweight or obesity: A systematic review and meta-analysis. Obes Rev, 22(S4):e13258, https://doi.org/10.1111/obr.13258
- Nicola Black et al. (2020) Behaviour change techniques associated with smoking cessation in intervention and comparator groups of randomized controlled trials: a systematic review and meta-regression. Addiction, 115(11), pp. 2008-2020, https://doi.org/10.1111/add.15056
- Michelle Campbell et al. (2000) Framework for design and evaluation of complex interventions to improve health. BMJ, 321, pp. 694-696, https://doi.org/10.1136/bmj.321.7262.694
- Lucy Yardley et al. (2015) The person-based approach to intervention development: application to digital health-related behavior change interventions. J Med Internet Res, 17(1):e30, https://doi.org/10.2196/jmir.4055
- Sarah Ann Mummah et al. (2016) IDEAS (Integrate, Design, Assess, and Share): A Framework and Toolkit of Strategies for the Development of More Effective Digital Interventions to Change Health Behavior. J Med Internet Res, 18(12):e317, https://doi.org/10.2196/jmir.5927
- Susan Michie et al. (2013) The behavior change technique taxonomy (v1) of 93 hierarchically clustered techniques: building an international consensus for the reporting of behavior change interventions. Ann Behav Med, 46(1), pp. 81-85, https://doi.org/10.1007/s12160-013-9486-6
- S Michie et al. (2005) Making psychological theory useful for implementing evidence based practice: a consensus approach. Qual Saf Health Care, 14, pp.26-33, https://doi.org/10.1136/qshc.2004.011155
- Rachel N Carey et al. (2019) Behavior Change Techniques and Their Mechanisms of Action: A Synthesis of Links Described in Published Intervention Literature. Ann Behav Med, 53(8), pp. 693–707, https://doi.org/10.1093/abm/kay078
- Lauren E Connell et al. (2019) Links Between Behavior Change Techniques and Mechanisms of Action: An Expert Consensus Study. Ann Behav Med, 53(8), pp. 708–720, https://doi.org/10.1093/abm/kay082
- Marie Johnston et al. (2021) Development of an online tool for linking behavior change techniques and mechanisms of action based on triangulation of findings from literature synthesis and expert consensus. Transl Behav Med, 11(5), pp. 1049–1065, https://doi.org/10.1093/tbm/ibaa050
- 片桐沙紀ら (2026) 行動メカニズムに基づく介入提案のための汎用フレームワーク. 情報処理学会研究報告, 2026-HCI-217(20), pp.1-8