
コンバージングテクノロジー研究所の山口です。
私たちは、行動変容支援プラットフォーム(通称 BXPF)の研究開発を進めています。
2026年3月に、このBXPFの成果の一部である 「行動変容プランニング」 を公開しました。公開に伴い、本特集では「行動変容支援プラットフォーム(BXPF)」について、全4回で紹介しています。
● 第1回 DXの次はBX? 行動科学を誰でも使える時代へ
● 第2回 人が動く施策を、エビデンスで設計する
● 第3回 用途や個人に合わせて進化するアプリ
● 第4回 BXでイベントプロモーションはどう変わる?
第2回では、行動科学の知見に基づいて「なぜその施策が有効なのか」を説明できるプランニングについて紹介しました。
前半のプランニングが担うのは、課題に対してどの行動原理(MoA)に着目し、
どの行動変容技法(BCT)を選ぶかを整理し、エビデンスに基づく介入設計を行うことです。
しかし、設計した介入は、それだけでは現場で機能する支援システムにはなりません。
実際には、その介入を画面や操作に落とし込み、体験可能な形で実装することが必要になります。
今回はそれを実現するカスタマイズを取り上げます。
今回は少し趣向を変えて、国際学会 BCSS 2026(14th International Workshop on Behavior Change Support Systems)で発表した内容を中心に、同じ基盤から用途や個人特性に合わせて行動変容支援システムがどう変わっていくのかをご紹介します。

なぜ「カスタマイズ」が必要なのか
行動変容の施策を考えるとき、私たちはどうしても「何が効くか」に注目しがちです。
どのような働きかけが有効なのか。どの理論に基づくのか。どの技法を使うのか。
もちろん、それは重要です。
一方で、行動変容の分野では以前から、理論的には妥当な介入でも、実際のアプリやサービスとして実装すると期待どおりの効果が出ないという問題が指摘されてきました。こうした課題は、しばしば theory–practice gap(理論と実践の乖離)として議論されています[1][2]。
同じ働きかけでも、
- どの場面で届けるか
- どの順番で見せるか
- どの程度の頻度で促すか
- どのような表現で伝えるか
によって、受け取られ方は変わります。
つまり、行動変容では「何をするか」だけではなく、どう届けるかまで含めて設計する必要があります。
なぜ従来は難しかったのか
ここで問題になるのが、行動変容支援システムの開発そのものの難しさです。
行動変容の研究では、行動変容技法(BCT: Behavior Change Technique)が体系的に整理されており、代表的な分類では 93種類の技法が定義されています[3]。また、第2回で紹介したような、行動の背後にある心理メカニズム(MoA: Mechanism of Action)と BCT の関係づけについても研究が進んでおり、どの心理プロセスに対して、どの技法が効きやすいかを整理する試みが行われています[4][5]。
ただし、ここに大きな壁があります。
理論を理解して施策を考えることと、それを実際のアプリとして実装することは、別の難しさを持っているからです。
既存の代表的な枠組みとして、介入を「なぜ・何を・どうやって」に分解して考える BIT model や、設計から評価までの流れを整理した IDEAS framework があります[6][7]。これらは非常に重要な枠組みですが、介入をアプリに実装して試すための技術的な実装基盤までは直接与えてくれません。
そのため、従来の 行動変容支援システム は、多くのケースで一から個別開発されました。
しかし、それらは施策のロジックとアプリの UI / データ処理 / 実行制御が密結合しているため、少し施策を変えるだけでもアプリ自体の改修が必要となります。
その結果、
行動分析 → 施策設計 → 要件定義 → 実装 → フィールド検証
という一連のサイクルが重くなり、試行錯誤のスピードが上がらない。
BCSS 2026 で私たちが問題提起したのは、まさにこの点でした。
BCSS 2026で紹介 UMI(Universal Modular Intervention)
そこで私たちが提案したのが、UMI(Universal Modular Intervention)です[8]。
UMI の中核にあるのは、Intervention-as-Code という考え方です。
これは、行動変容施策を曖昧な文章や個別実装の中に埋め込むのではなく、機械的に解釈・実行できる形で記述するという発想です。
UMI では、施策を次の 3 層に分離します。

- Designer
行動科学や対象業務の知見を持つ人が、GUI 上で施策を設計する層です。
- Blueprint
設計した施策を、実行可能な中間表現として記述する層です。
どの BCT を使うか、どういう順序で提示するか、どのような設定値を持つか、といった情報をここに持たせます。
- Runtime
Blueprint を解釈して、実際の UI やアプリの振る舞いを生成・制御する層です。
この分離によって、行動理論に基づく行動変容システムをノーコードで構築しやすくなります。
さらに、施策を変えたいときにアプリ全体を作り直すのではなく、施策の定義側を編集して差し替えるという考え方が可能になります。
ケーススタディで何を示したのか
BCSS 2026 では、UMI を使った予備的なケーススタディも紹介しました。
Case 1:初期開発
最初のケースでは、体重管理を題材に、
「目標設定(Goal setting)」と「セルフモニタリング(Self-monitoring)」を組み合わせたアプリを構成しました。

Case 2:施策変更
次のケースでは、同じ体重管理アプリをベースにしながら、
介入戦略の一部を目標設定から報酬(Rewards)へ切り替えました。

Case 3:用途変更
さらに 3 つ目のケースでは、基本の介入ロジックを保ちながら、
対象領域を体重管理から英単語学習へと転用しました。

ここで重要なのは、これらの変更が「アプリを丸ごと作り直した」結果ではないことです。
UMI では、変更は主に Blueprint 側に局所化されます。ケーススタディで用いた Blueprint は、いずれも 2000 文字前後で実現しました。
そして、施策や用途の変更も、この Blueprint の差分編集によって実現できることを示しました。
つまり、UMI が示したのは、単に「アプリが作れた」ということではありません。
施策の変更や用途の転換を、再開発ではなく“差し替え”として扱える可能性です。
BXPFにおける「カスタマイズ」とは何か
BXPF 全体で見ると、前半のプランニングは BCT を選ぶ段階、
後半のカスタマイズは選んだ BCT を体験にする段階です。
前半では、課題に対してどの BCT を採用するかを整理し、エビデンスに基づく介入設計を行います。
後半では、その BCT を実際に使って試せる体験にするために、画面や機能などを具体化します。
たとえば、プランニングの結果として「目標設定」や「セルフモニタリング」が重要だと分かった場合、
カスタマイズでは、それを目標入力画面、進捗の記録機能、振り返り表示、通知のタイミングといった具体的な体験へと落とし込んでいきます。
ここで言うカスタマイズは、単なる見た目の変更ではありません。
施策とアプリ実装を分離した上で、用途や対象に応じて組み替えや調整をしやすくすることです。


たとえば、同じ基盤を使っていても、
- 訓練系なら、フィードバックや振り返りを中心にした体験
- 習慣系なら、目標設定や記録継続を支える体験
といったように、必要となる機能や画面は変わってきます。


UMI の意義は、こうした調整を毎回ゼロから実装し直さなくても試しやすい土台を作ることにあります。
「作れる」から「進化させられる」へ
生成 AI の登場により、アプリを試作すること自体は以前よりずっと容易になりました。
しかし、行動変容支援で本当に重要なのは、速く作れることだけではありません。
重要なのは、
根拠のある施策を、現場で使える形にし、しかも試行錯誤しながら進化させられること
です。
BCSS 2026 で紹介した UMI は、そのための実装基盤として位置づけられます。
理論と実装の間に横たわっていた距離を縮め、設計・実装・検証のサイクルを軽くする。
それが、BXPF の後半である「カスタマイズ」が目指している方向です。
なお、UMI の現時点の報告は予備的ケーススタディの段階であり、実ユーザーを対象にした大規模・長期の評価は今後の課題です。それでも、施策とアプリ実装を分離するという考え方自体は、行動変容支援システムの研究における反復速度や再現性の改善に向けて大きな意味を持つと考えています。
まとめ
今回は、BCSS 2026 での発表内容を中心に、BXPF 後半の「カスタマイズ」を紹介しました。
行動変容支援では、施策の正しさだけでは足りません。
それをどのような形で届けるか、どう素早く試し直せるかまで含めて設計する必要があります。
UMI が目指しているのは、施策をモジュールとして扱い、設計と実装を分離することで、
- 変更しやすく
- 再利用しやすく
- 検証しやすい
行動変容アプリ開発を実現することです。
BXPF のカスタマイズは、行動科学を「分かる知識」にとどめず、
使える仕組みとして社会実装していくための中核技術だと考えています。
Fujitsu Research Portalでは、行動変容プランニングを公開中です。
まずは、課題に対してどのような介入が考えられるのかを、ぜひご体験ください。
また、今回紹介した UMI を含むカスタマイズについては一般公開していませんが、
設計した介入を実際に動く形にし、体験してみたい方には、お問い合わせを通じて体験いただくことが可能です。
次回は、イベントプロモーションを題材に、BX が施策設計をどのように変えるのかを紹介します。
参考文献
- Ananthakrishnan A, Cong C, Riccalton V, Meinert E. Progressing implementation of behavior change frameworks for digital health interventions: challenges and ways forward. Translational Behavioral Medicine. 2025. doi:10.1093/tbm/ibaf069
- Marcu G, Ondersma SJ, Spiller AN, Broderick BM, Kadri R, Buis LR. Barriers and considerations in the design and implementation of digital behavioral interventions: Qualitative analysis. Journal of Medical Internet Research. 2022;24:e34301. doi:10.2196/34301
- Michie S, Richardson M, Johnston M, et al. The behavior change technique taxonomy (v1) of 93 hierarchically clustered techniques: Building an international consensus for the reporting of behavior change interventions. Annals of Behavioral Medicine. 2013;46(1):81-95. doi:10.1007/s12160-013-9486-6
- Carey RN, Connell LE, Johnston M, et al. Behavior change techniques and their mechanisms of action: A synthesis of links described in published intervention literature. Annals of Behavioral Medicine. 2019;53(8):693-707. doi:10.1093/abm/kay078
- Johnston M, Carey RN, Bohlen LEC, et al. Development of an online tool for linking behavior change techniques and mechanisms of action based on triangulation of findings from literature synthesis and expert consensus. Translational Behavioral Medicine. 2021;11:1049-1065. doi:10.1093/tbm/ibaa050
- Mohr DC, Schueller SM, Montague E, Burns MN, Rashidi P. The behavioral intervention technology model: An integrated conceptual and technological framework for eHealth and mHealth interventions. Journal of Medical Internet Research. 2014;16(6):e146. doi:10.2196/jmir.3077
- Mummah SA, Robinson TN, King AC, Gardner CD, Sutton S. IDEAS (Integrate, Design, Assess, and Share): A framework and toolkit of strategies for the development of more effective digital interventions to change health behavior. Journal of Medical Internet Research. 2016;18(12):e317. doi:10.2196/jmir.5927
- Yamaguchi T, Matsuki M, Katagiri S, Ishihara M. UMI: Universal Modular Intervention Framework to Accelerate Behavior Change Support Systems Research. Proceedings of the 14th International Workshop on Behavior Change Support Systems (BCSS 2026). 2026.