初めまして。富士通研究所コンバージングテクノロジー研究所の中村幸太郎と申します。 私は富士通が実施している人事制度の一つ「Jobチャレ!!」を利用し、営業から研究職へjobチェンジを行い海洋デジタルツインの研究開発に取り組みました。 本投稿では「Jobチャレ!!」の制度概要や実際に制度を利用して得た学びについてご紹介します。
Jobチャレ!!制度の概要
Jobチャレ!! とは
『 社員自身が希望する部署に期間限定で異動し、異なる業務を経験できる 』 施策です。 期間は約3カ月~6カ月が多く、期間終了後は元の部署で異動期間中に得たこと、学んだことを活かし業務を実施します。 対象者は富士通および富士通Japanの一般社員と幅広く、誰でも手をあげることが可能です。
施策の目的・ねらいについて
社員にとって
他部署に異動し、新たな業務や人材との接点を持つことにより、多様なビジネスフィールドやキャリアの広がりを体感すると共に、 実践環境を通じたより質の高い効果的な学びの機会を得られます。
会社にとって
自部署におけるポジションを維持した環境の中で自らの意思により新たな業務へチャレンジできる仕組みを提供することで、 ポスティングへの応募など社員およびマネジメント層双方の心理的なハードルを下げ、 社内における人材の流動性を高めると共に、自律的なキャリア形成を促進できます。
海洋デジタルツインについて
少し話がそれますが、簡単に私の異動先となった海洋デジタルツインプロジェクトについてご紹介させていただきます。
研究コンセプト
海洋の状態をデジタル空間に高精度に再現し、海洋を構成する環境の変化や海洋を活用した施策の効果などのシミュレーションによる予測を可能にすることを研究開発のコンセプトにしています。 海藻、サンゴ礁などの海中の生物や、水産資源や海洋環境に影響を及ぼす構造物などの、植生分布や3次元形状といったデータを、自律型無人潜水機や衛星などを活用してデジタルデータとして収集し、海洋を構成する環境や生物の成長などの変化を数値シミュレーションするモデルを構築し、「ブルーカーボン*1」「環境アセスメント」「洋上風力発電」をはじめとした海洋に関する様々な施策の事前検証に活用することを想定しています。
背景
富士通では持続可能な成長に向けたマテリアリティの1つとして地球環境問題の解決を掲げており、気候変動(カーボンニュートラル)や自然共生(生物多様性の保全)に取り組んでいます。その中でも、海洋は面積が地球の表面積の約7割に相当し、気候変動に大きな影響を及ぼすため、海洋に関するカーボンニュートラルや生物多様性保全の施策の事前検証を可能とする海洋デジタルツインの開発に取り組んでいます。2026年度中にはブルーカーボンの吸収量が多い海藻などに拡大することを目指し、藻場に関する海洋デジタルツインの確立を目指しています。
開発技術について
本研究では、濁りや波、海流などの影響がある海洋特有の困難な環境でも、海中の生物や構造物の高解像度3次元形状データを取得可能にする2つの技術を開発しています。これらの技術をベースに「ブルーカーボン測定」を含む、様々な海洋デジタルツイン活用の可能性を検討しています。
1. 海中の被写体の色や輪郭を復元する画像鮮明化AI技術
濁った海中での撮影により色が劣化して輪郭のぼけた画像でも、海中の被写体に最適化した深層学習を行った画像鮮明化AI技術を開発しました。この技術は濁り除去と輪郭の復元を実現する2つのAIからできており、被写体本来の色を復元し、ぼけた輪郭を改善した画像を生成した上で3次元化します。これにより、3次元化処理・被写体認識の際のエラーを防止し、物体ごとに形状計測することが可能になります。
2. 移動中の自律型無人潜水機からリアルタイムに3次元計測ができる海中3次元計測技術
海中でリアルタイムに3次元計測するため、海況によって3つのレーザー波長の中から計測に適した波長を選択できる水中LiDAR*2を導入しました。加えて、短周期のレーザー発光と高速走査による高速サンプリング技術を採用しました。これにより移動している自律型無人潜水機から3次元計測ができるだけでなく、物体の動きを追従する技術を開発することにより、動いている物体の計測も可能になることが期待されています。
ブルーカーボン測定
背景で記載したように、現在は海洋デジタルツインの中でも特にブルーカーボンの測定技術に注力しています。 水中ドローンと、富士通独自の画像鮮明化AI技術および海中3次元計測技術を適用したGHG*3量の計測を含む高精度な海洋環境モニタリング調査についてプレスリリースも発表していますので、ご興味があればぜひご確認ください。
開発技術の詳しい内容は以下のプレスリリースをご確認ください。 また来月には、石垣島で行った実証実験に関して新たなTECHBLOGを掲載予定ですので、乞うご期待ください。
Jobチャレ!!期間に実施したこと
さて、話は戻りまして、私は2024年5月から11月の半年間の間、本制度を利用して営業から今のコンバージングテクノロジー研究所へ異動しました。
応募の動機と経緯
応募のきっかけは漠然としたキャリアへの悩みがきっかけでした。私は入社してからの3年間富士通の営業として信用調査業界・エステ業界に対してシステムを販売する業務に従事してきました。ただ、ふと将来のキャリアを考えた際に、このままでは自分の担当する業界や販売している製品の知識しか持っていない、視野の狭い営業になってしまうのではないかという危機感を覚えました。そこで、社会への知見を広げつつ、何か一つ強みとなるようなスキルを持つことが出来るような営業になる為、期間限定で異なる仕事に挑戦できる「Jobチャレ!!」制度に興味を持ちました。 しかし、この時は自分が研究職に応募するとは思ってもいませんでした。
選考プロセス
Jobチャレ!!の選考プロセスは求人票に記載の応募条件を確認、応募書類作成、面接となっています。当時、求人票には全社DXプロジェクトの企画・運営業務、物流業界へのコンサルティング業務、各種業界へのアカウントセールス業務、顧客向け製品の開発業務などの様々な求人が掲載されていました。私のこれまでの経験はアカウントセールス業務の為、経験を活かしながら今とは異なる業界相手に仕事ができる求人に興味を持っており、求人を眺めていると、たまたま『研究テーマ「海洋デジタルツイン」のプロジェクト推進メンバー』という求人が目につきました。もともと海の環境問題に興味を持っていた私の目には非常に魅力的なテーマに映りました。しかし、本求人は研究職であり、営業しか経験していない私では役不足かと諦め半分で求人要件を眺めていると歓迎要件はあるものの、必須要件は無かった為、所属の上司と相談の上、不安がありながらも応募しました。 その後、面接で自分の志望動機を伝え、ご縁を頂き本PJに従事させていただいたという経緯になります。
チャレンジ内容の詳細
私が取り組んだ業務は主に開発用のデータ取得業務とビジネスモデルの検討です。 海洋デジタルツインではブルーカーボン創出の拡大の為、藻場の自動計測技術開発に取り組んでいます。 技術開発の為には計測の対象となる藻類、海草類の計測データが必要となる為、日本各地の海に出向きデータ取得を行いました。具体的に私が行ったこととしては実験機材の準備やデータ取得当日の水中ドローンオペレーション、各種センサを利用してのデータ取得、時には潜水用具を身に着け、海に潜りながらのデータ取得作業などを実施しました。私には開発経験が無い為、実験計画の策定などは難しかったのですが、実験計画を聞く中で、今回取得するデータにはどのような意味があるのか、どういった結果が期待されるのかなどをメンバーの皆様に質問させていただき、半年の経験を経て、皆様が取り組まれている技術開発内容や描かれている未来の姿について説明ができるほど理解を深めることが出来たと感じています。
また、ビジネスモデル検討の面ではブルーカーボンの枠に収まらず、海洋デジタルツインの技術を活用したビジネスモデル検討を実施しました。多くは記載できませんが、海を取り巻く様々なステークホルダーを整理し、我々の開発技術をお金に変えていくために、営業としての知見を活かしながら、どういう方向性を持つべきか、持続可能な成長に向けたマテリアリティの1つとして地球環境問題の解決を掲げている富士通としてどういう未来の姿を描くべきかについて検討を進めました。検討に際し、海を取り巻くステークホルダーに関して調査を実施や、担当の方と会話することで、これまでとは異なる業界に対する知見を獲得できたと感じています。
また全般を通して、そもそも私の技術知見が浅く、仕組みを丁寧に説明していただいたり、研究所の仕事の進め方がこれまでとは異なり、文化の違いに戸惑いを感じたこともありましたが周りの皆様に優しくフォロー頂きました。また、PJメンバー用の実験ルームがあったり、対面でのコミュニケーションが非常に多いなど新鮮な体験も数多くありました。
成果と学び
この半年間を通して様々なことを学びましたが、営業に戻った際に今後の業務で活きると感じた学びを3点紹介します。
購買者側の視点
実験準備を進めるなかで各種機材の選定にも携わらせていただきました。 これまで富士通製品を売る業務のみに従事してきましたが、初めて製品・サービスを買う側の立場を経験し、選定基準を肌で感じることができました。 選定基準の中でも機器要件など営業活動ではどうしようも出来ない要件も存在しますが、 レスポンスの速さ、営業への信頼感、パートナーとしての振る舞い、コストなど、個人の行動が選定基準となっている可能性もある為、今後の営業活動の中で意識できるように努めます。
サステナ経営の重要性
ビジネスモデル検討に当たり、ブルーカーボンによるカーボンニュートラル社会の実現、生物多様性の保全など、世界が抱える環境問題や社会問題について数多く調査を実施しました。その中で、企業が持続可能な経営(サステナビリティ経営)を目指さなければならない理由、サステナビリティ経営のメリットである「潜在的なリスクの低減」「社会課題起点のビジネス創出」「サステナブルな取り組みによる企業価値や組織価値の向上」を理解しました。これらを理解したことで、今後の営業活動の際、これまでとは異なった視点のアプローチで顧客に対して提案が出来るようになると考えています。
グローバルな視野とトレンドの理解
これまでの営業活動では日本の1業界、1お客様視点で物事を見てきました。しかし、研究所ではグローバルに向けた活動を念頭に置かれていると感じました。研究発表も海外で行い有識者と意見交換をしたり、プレスリリースに関しても英語版を準備したり、海外からの分野の著名なゲストを招いたりと世界基準で有効な技術開発を実施されています。環境問題に対しても欧州が進んでいるように、世界のトレンドを理解しながらアカウントに対して提案していくことの重要性を学びました。
このほかにも、レーザセンサの理解、機体制御への理解、画像認識への理解、藻種(アラメ、カジメ、アマモ類)の生物学的知見など、これまで触れてこなかった分野について多くのことを学ばせていただきました。
まとめ
富士通では社員それぞれが、自分のキャリアを組織に任せるのではなく、自らより良い生き方・働き方を考え、自分自身でキャリアをデザインするキャリアオーナーシップを求めています。 そして、キャリアオーナーシップをサポートする取り組みとして「Jobチャレ!!」をはじめ、「ポスティングの拡大」「1on1ミーティング」「キャリアオーナーシップ診断」など、多くの取り組みを実施しています。
fujitsu.recruiting.jp.fujitsu.com
今回、私は「Jobチャレ!!」の経験を通して、自分のキャリアに改めて向きあういい機会となりました。帰任後はこの半年間で得た学びを最大限に生かし、富士通の更なる利益拡大に向けて営業活動を行います。そして、営業活動に従事しながら、自分自身のキャリアを見つめなおし、自分の理想のキャリアビジョンに向けて邁進していきます。
最後に
改めて、人手が減ってしまう中でも快くJobチャレ!!への挑戦を承諾頂いた派遣元の皆様、 研究職でもない私を温かく迎えてくださった研究所の皆様、 半年間本当にありがとうございました。