こんにちは。コンバージングテクノロジー研究所の飯田です。私たちの研究グループでは、海洋まるごとデジタル化を目指し、海洋デジタルツインの技術開発を行っています。今回その一環として沖縄県で初めて自然共生サイトとして認定された石垣島の野底地域で技術実証を行ったので、その内容をご紹介します。
富士通の海洋デジタルツイン
持続可能な社会の実現に向けて、地球の表面積の7割を占める海洋の環境保全と有効活用は喫緊の課題です。私たちが開発している海洋デジタルツインは、海におけるカーボンニュートラルや生物多様性保全の施策の効果を事前検証することを可能とする技術です。
海洋デジタルツインを実現するために、水中ドローンや空中ドローン、衛星等に搭載されている多様なセンサーから得られる膨大なデータと、海洋学の知見、そしてAI技術を統合することで、海洋環境の高精度なデジタル化を実現します。
これにより、二酸化炭素吸収に期待されているブルーカーボン増大、生物多様性保全に重要な環境アセスメント、再生可能エネルギー源として期待されている洋上風力発電の保守など、様々な施策の効果を事前に検証する「デジタルリハーサル」が可能になります。現実世界での実験に先立ち、リスク軽減を実現し、最適な施策選択を支援します。ここでブルーカーボンとは海洋生態系が光合成により二酸化炭素を取り込み、蓄積される炭素のことです。私たちはブルーカーボン増大に有望な藻場(海藻や海草が繁茂している場所)に関するデジタルツインの2026年度中の確立を目指しており、ブルーカーボン施策による二酸化炭素吸収量の増大や水産資源の維持などへの効果を検証できるようにします。
実現にむけて開発している技術は自動制御技術、海洋計測技術、藻場AIモデル技術で、例えば、海洋計測技術は、高精細な3次元データ化に向けて海中物体の色・輪郭を復元する画像鮮明化AI技術や海中物体の動きをリアルタイムに捉える海中リアルタイム3次元計測技術です(プレスリリース)。コンセプトや技術につきましては、2024年12月12日開催の富士通テクノロジー戦略説明会でも紹介しています。
さらに技術開発だけでなく、コンセプトに賛同してくれる海洋に熱い想いを持つ営業や開発など様々なバックグラウンドを持つメンバーも社内制度を利用して参画しており、様々な視点から社会課題に対する具体的な実装方法なども検討しています。関連記事が出てますので、こちらもご覧ください。
技術実証について
2024年11月上旬に、石垣市の野底地区にて技術実証の一貫として、海洋計測技術の検証と海洋のモデル開発用データ取得などを行ってきました。
この実証海域である野底崎のアマモ場は、沖縄県で初めて自然共生サイトの認定を受けた海域です。自然共生サイトとは、環境省による令和5年度からの取り組みとして、企業や地域住民による生物多様性保全活動が活発な区域を認定する制度です。10種近いアマモ類が生息する希少な場所で、特にウミショウブは分布の北限にあたり、絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。近年、アオウミガメによる食害が深刻化し、絶滅の危機に瀕しているため、クラウドファンディングによって防護柵を新設するなどの保全活動が実施されています。また富士通を含む民間企業と地域住民が協力し、ウミショウブの育成・移植、水中ドローンを用いたモニタリングなどを行い、アマモ場の保全に努めていきます。プレスリリースを出していますので、ご興味があればぜひご御覧ください。
私たちは、今回このウミショウブ保護エリアを中心にデータ取得を行いました。取得したデータは、AI解析による植生の分布や分類、形状計測などを行うための海中の画像データやリアルタイムに形状を計測する水中LiDAR(Light Detection And Ranging)計測による3次元データ、広域の植生分布を把握するための空中ドローンによる空撮データ、水質データなどです。これらのデータは、高精細かつ高精度に取得できており、デジタルツイン開発にむけた海洋のモデル構築に有効であることが検証できました。また将来的なブルーカーボン申請のための広域の植生分布の調査も行いました。これらについて一部ご紹介します。
水中ドローン搭載カメラのよる水中画像データ収集
ウミショウブ保護エリアの海域において、水中ドローンを用いて水中画像データを取得しました。 その結果、防護柵の内側ではウミショウブが繁茂しているのに対し、外側では食害によりウミショウブはほとんど生育していないことが確認されました。さらに、柵内にはウミショウブ以外の植生も存在することが判明しました。これらのデータは、AIによる解析のための学習データとして活用し、ウミショウブの被度(植物が地面を覆う割合)算出や、海洋生態学と組み合わせた藻場AIモデルの構築に用いる予定です。
水中LiDARによるウミショウブの3D計測
LiDARは、レーザー光を対象物に照射し、戻ってくるまでの時間を計測で、対象物までの距離を計測する技術です。このレーザーを2次元に走査することで対象物の3次元形状を測定することが出来ます。我々が用いる水中LiDARは、数cm程度の高分解能かつ最高20fpsまでのリアルタイム計測が可能で、波による対象物の動きにも対応することが可能です。今回ウミショウブを上方からリアルタイムに計測ができていることを確認しました。これによってウミショウブの形状や体積の把握が可能となるので、精密な二酸化炭素吸収量算出や海洋のモデル構築への適用を進めます。
空中ドローンによる海域調査
ウミショウブ保護エリア全体について、空中ドローンを使って海岸に沿って1.2km程度の範囲を撮影し、植生の分布を調査しました。保護のため設置した防護柵の内部は色が濃くなっていて、水中ドローン調査の結果からもウミショウブをはじめ海草が生えていることが分かります。また有識者を交え意見を頂き、柵以外の注目するべきポイントに関しても特定することが出来ました。これらのデータを活用した海洋のモデル開発を進めます。
今後について
今回取得した膨大なデータの解析と定期的なモニタリングを行い、海洋デジタルツインの開発を進めて、この海域のウミショウブ保全の最適施策選択を可能となるようにします。また他の海域についてもモニタリングを進めることで、海洋環境のモデルの開発を進めます。
これからもタイムリーにいろいろな情報をお届けしますので、ご期待ください!