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IEEE ICWS 2025 で偽情報対策技術について発表しました - fltech - 富士通研究所の技術ブログ

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IEEE ICWS 2025 で偽情報対策技術について発表しました

こんにちは。富士通研究所 データ&セキュリティ研究所の大木です。2025年7月7日から12日まで、フィンランドのヘルシンキで開催された国際会議 IEEE International Conference on Web Services (ICWS 2025) に参加し、研究成果の発表を行いました。本記事では、その内容についてご報告します。

IEEE ICWS について

ICWSは、サービスコンピューティング分野における主要な国際会議のひとつであり、IEEEが毎年主催している World Congress on SERVICES を構成する中核カンファレンスとして位置づけられています。

SERVICES は、クラウド、エッジ、デジタルヘルス、量子コンピューティングなど、多様なサービス領域にまたがる専門会議を統合した国際会議群です。参加者はどの会議のセッションも自由に聴講できます。ICWS はその中で Webサービス技術やサービス指向アーキテクチャ(SOA) を中心テーマとする専門会議として2003年以来毎年開催されています。

会場のヘルシンキ大学

発表内容

今回はA Hybrid Approach Combining LLMs and Web-Based Information for Automated Fact-Checking というタイトルで偽情報対策技術についての発表を行いました。内容について簡単にご紹介します。

現在、インターネットやSNSの普及により、誰もが容易に情報を発信できる一方で、誤った情報や意図的に作られた偽情報も瞬時に拡散してしまいます。これにより社会に混乱や悪影響が生じるケースも少なくありません。

メディアや専門機関は「ファクトチェック」と呼ばれる作業を通じて疑わしい情報の真偽を検証していますが、人力では膨大な情報を扱いきれず、時間もかかります。そこで注目されているのが「自動ファクトチェック」です。

私たちの研究では、この自動ファクトチェックをAI(大規模言語モデル=LLM)の知識とインターネット検索を用いて集めた情報を組み合わせて真偽を判定するハイブリッド手法を提案しました。特に、集めた証拠を「グラフ」と呼ばれる形にまとめ、どの情報がどの主張を支えているかを整理します。 信頼できるサイトからの証拠は重視し、複数の独立した証拠が一致していれば「真」と判定する仕組みです。こうした証拠ベースの判定により、透明性と納得性の高い結果が得られます。

なお、本取り組みは富士通を含む産学組織9者で共創して構築している偽情報対策プラットフォーム*1の成果の一部です。本研究内容に基づくデモアプリは、弊社の技術紹介の場であるFujitsu Research PortalにおいてTrustable Internet技術として公開していますので、ぜひご覧ください。

偽情報対策技術についてのデモ画面

聴講内容について

基調講演

基調講演では、カーネギーメロン大学のMahadev Satyanarayanan教授が登壇しました。 教授はエッジコンピューティングの提唱者として知られ、クラウドとエッジの役割や今後の展望について講演しました。

クラウドコンピューティングは現在5,000億ドル規模の巨大産業となり、AlphaFoldのようなノーベル賞級研究にも貢献しています。その強みは「集約」にあり、大規模データセンターによって強力な計算力やセキュリティが提供されてきました。一方で、遠隔データセンターに依存する仕組みは遅延の問題を抱えており、ARや医療のようにリアルタイム性が求められる分野には不向きです。

これを解決するのが、ユーザー近傍に設置する小型データセンター「クラウドレット(Cloudlet)」です。GoogleやAmazonなど主要ベンダーも導入を進めており、低遅延・効率性・プライバシー保護などの利点が強調されました。

応用領域として紹介されたのが「ウェアラブル認知支援(Wearable Cognitive Assistance)」です。これは、自動車の運転支援システムのように、人の行動を逐次サポートするもので、家具の組み立てや工場・医療現場におけるヒューマンエラー防止、さらには高齢者の転倒予防などに活用できるとしています。この基盤として「Wingmanアーキテクチャ」と呼ばれる構想が提示され、ウェアラブルデバイスとクラウドレットをを連携させてリアルタイムに警告を行う仕組みが紹介されました。

講演の最後にMahadev教授は、クラウドとエッジは対立するのではなく、それぞれの強みを補い合いながら未来の社会基盤を形作っていくべきだと強調していました。

ICWS 2025 Best Paper

会議全体として、生成AIやLLMを活用した研究発表が目立ちました。3~4本に1本はタイトルにLLMを含み、内容として触れているものはさらに多い印象でした。サービスコンピューティング分野でも不可欠なテーマとなっていることが伺えます。

ICWS 2025 ベストペーパー賞に選ばれた山東大学の研究チームによるScenario Generator Design Method for Service Ecosystem Governance driven by LLM-empowered Agents Simulationという発表もその一つでした。これは、LLMを活用してサービスエコシステムの将来シナリオを生成し、複雑な環境下での意思決定を支援する手法を提案した研究です。

サービスエコシステムとは、APIマーケットプレイスのように多様なサービス提供者や利用者が関わる複雑な環境を指します。社会的・技術的要因が絶えず変化するため、将来を予測し適切にガバナンスを行うことが課題となります。

この研究では、以下の3種類のエージェントをLLMで駆動し、協調させることで多様な未来シナリオを生成できるようにしています。実験では従来手法よりも、極端な事象や複雑な相互作用を的確に再現できることが示されました。

  • Planner Agent:ルールや知識を整理し、実験計画を生成
  • Environment Agent:環境の変動や極端事象をモデル化
  • Social Agent:社会関係や相互作用を再現

複数エージェントに役割を分担させて協調的に問題解決を図るアプローチは、私自身の研究にも参考になりそうです。

終わりに

ICWSはテーマの幅が広く、併催されるSERVICES内の会議も含めて多面的な視点を得ることができました。私は元々ソフトウェア工学を専門としていましたが、現在取り組んでいる偽情報対策技術は、AI、自然言語処理、データ工学など多様な専門分野を横断する複合領域に位置しています。今後もこのような国際会議を通じて視野を広げ、研究のさらなる発展につなげていきたいと考えています。

謝辞

本成果は、NEDO (国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) の助成事業(JPNP22007)の結果得られたものです。