デバイス&マテリアル研究センターとモバイルシステム事業本部の6Gアンプグループです。私たちは、サブテラヘルツ帯と呼ばれる高周波信号を用いた大容量通信の研究開発を行っていますが、今回、300GHzにおいて世界で初めて0.7波長(0.7mm)という狭ピッチの導波管開口アレイアンテナによるビーム制御に成功したため、ご紹介します。
- 本技術の詳細は、国際会議「2023 IEEE CAMA(Conference on Antenna Measurements and Applications)」にて発表を行いました。
- また、2024年2月26日から29日までスペインのバルセロナで開催される世界最大のモバイル関連展示会MWC2024(Mobile World Congress)にて、本成果であるアレイアンテナおよびパワーアンプを出展いたします。
- 本研究開発は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「Beyond 5G研究開発促進事業:テラヘルツ帯を用いたBeyond 5G超高速大容量通信を実現する無線通信技術の研究開発(JPJ012368C00301)」、および総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」によって実施した成果を含みます。
背景および従来の課題
私たちが子供の頃に思い浮かべた未来の世界は少しずつ現実のものになってきています。あらゆるものは自動化・省人化の方向に進み、物理的に遠くにいる人をいかに身近に感じさせるかの技術革新も目覚ましいものがあります。これらを支える技術要件の一つに、大量のデータを瞬時に別の場所へ送る「通信」があり、現在の世界では2030年スタートと目される6G無線通信システム向け研究開発が盛んに行われています。
私たちのグループが研究開発を行っているサブテラヘルツ帯と呼ばれる100GHz帯以上の周波数は、数GHzである既存の無線通信周波数に比べ広い帯域を確保できるため、大容量・高速通信の有力候補とされています。その中でも特に300GHz近辺は連続した広い周波数を確保できる可能性があるため、将来通信に向けた研究開発がさかんに行われています。
しかしながら、高周波信号は電波の到達距離が短く、かつ障害物に対する回り込みが小さいという本質的な問題を抱えており、その解決策の一つがフェーズドアレイアンテナを用いたビーム制御と言われています。これはアレイ化したアンテナから高度に位相を制御した信号を放出することで電波をビーム状に絞り、かつ任意の方向に向けることができるという技術です。このフェーズドアレイでは、アンテナを配置する際の周期(ピッチ)が重要なパラメータであり、意図しない方向への不要電波放射を防ぐためには、アンテナを波長以下(300GHzでは1波長が1mm)の極めて狭い周期で配置する必要があります。
開発した成果
300GHzにおける0.7波長ピッチ1x4アレイの実現
今回我々は、アンテナピッチのターゲットとして0.7波長を選びました。これはおよそ±25度のビーム振りの範囲で不要放射を抑制できる値であり、300GHzの電波に対しては0.7mmという極めて狭いピッチとなります。図1に示すように、試作した1x4アレイには、①導波管開口アンテナ、②マイクロストリップ線路-導波管変換、③インターポーザへフリップチップ実装したパワーアンプチップが含まれており、これらの全てを0.7mmという微小領域にて加工することに成功しました。
また、作成した導波管開口アレイアンテナにおいてビーム制御実験を行ったところ、300GHzの電波に対して±10度のビーム制御を確認することができました。300GHzにおける0.7mmピッチの導波管アレイを用いたビーム制御の成功は世界初となります。
0.7波長ピッチサイズのパワーアンプを開発
InP材料系を用いた高電子移動度トランジスタ:HEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いたMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)において、一辺を0.7mm以下に抑えた10mW級パワーアンプを実現しました。図2にチップ写真を掲載します。
今後の展望
今回は導波管開口を用いた一次元アレイアンテナにて300GHzのフィジビリティ確認を行いました。今後は、実用化に必要な小型化やスタックによる二次元アレイ化に向け、新たな構造を開発してまいります。
関連リンク
- 高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor)がIEEEマイルストーンに認定(2019年12月18日プレスリリース)
- 6G高速通信に向けた世界最高効率のJ帯パワーアンプを開発(2023年2月27日 技術トピックス)