こんにちは。D&S研プライバシーCPJの安部と花田です。今回は2024年1月5~8日に開催された国際会議であるICCE2024に参加し、インダストリアルセッション、口頭発表を行ったので報告します。
ICCE概要
ICCE(International Conference on Consumer Electronics: https://icce.org/2024/)はConsumer Electronicsに関連した研究を発表・議論する場で、今年で42回目となる老舗の国際会議です。開催地はアメリカ、ラスベガスで、世界最大級の家電・IT展示会であるCES(https://www.ces.tech/)が行われる直前の会期のため、多くの参加者で賑わっていました。
プログラムは午前中にKeynote SpeechやIndustrial Session、午後からは一般セッションやポスターセッションで350を超える発表が5~6会場で行われ、盛りだくさんの内容の会議となります。初日の夜にはWelcome Receptionが行われ、数多くの研究者が交流を楽しんでいました。参加者は日本、中国、台湾などアジアの参加者が半分以上いた印象ですが、北米、ヨーロッパ、南米からの発表者もいました。
Industrial Session
Industrial Sessionは応募企業がセッションテーマを設定し、そのテーマについてスペシャリストを招待してディスカッションを行うセッションになります。今回は我々富士通のほかに、NTT、Sphere(ラスベガスで球体型の新しい劇場を開発・運用している企業。本ブログの最後にも写真を載せているので是非ご覧ください。)がセッションを行いました。本章ではわたくし安部がモデレータを務めたセッションについて報告します。
私たちは”Social Intelligence in the Web3 Era”というテーマでAI、CV、IoT、NW、セキュリティの研究者をパネリストとして迎え入れて各分野での技術の最新動向を共有しながら、Web3×次世代認証×AIの新たなSocial Intelligenceの形について議論しました。
今回私たちがこのIndustrial Sessionを行った理由は、世界最大のIEEE学会を通じて富士通の最新技術をアピールし、Web3やセキュリティ・認証などの技術領域でのプレゼンスを強化しつつ、常時認証など新たな世界観についての共感獲得を狙うためでした。
セッションには下記パネリストの方々にお越し頂き、各最新技術の動向について語っていただきました。
- Purdue大学)Zhang准教授:バイタル情報センシングでSmart Health/Home活用
- 立命館大学)山本教授:IoT/NW/Blockchainで安全にセンシングデータを有効活用
- FRE)Andikan シニアリサーチャー:ユーザ生成データのトラストを検証
- FRA)内野リサーチディレクター:FujitsuのAI Kozuchiの紹介
各パネリストの発表後、技術の限界点と今後、各分野のシナジーを議論し、Zhang准教授からは、「プライバシーはいつでも重要課題。事前同意はもちろん、取得したデータ管理の正当性検証の仕組みも必要だ」、山本教授からは「AIはどの技術分野にも入り込んでいる。一方生成されるデータ、管理検証もAI、倫理が重要である」と熱く語ってくれました。
また、私たちの技術をより詳しく説明するために隣の会場でデモブースを設置して、以下の3つの技術について紹介しました。
- Web3 Acceleration Platform(https://www2.fujitsu.com/jp/web3-acceleration-pf):こちらは、富士通が取り組んできたトラスト、ブロックチェーン、コンピューティングの技術と活用のノウハウをオープンにし、コミュニティ構築や開発コラボレーションなどの共創活動を通して新たな経済圏を生み出すものです。ブースではコネクションチェーンやTrustable Internetなどの技術の紹介をしました。
- AutoML(https://automl.jp.fujitsu.com/ja/):こちらは、機械学習を行う際に必要なさまざまなプロセスを自動化する技術です。機械学習には、これまでAIモデルの構築に時間がかかったり、膨大なコンピュータリソースを必要としたり、またどのようにAIモデルが構築されたかがわからないなどの課題がありました。これらの問題へ対処するため、高精度なAIモデルを、試行錯誤可能な実行プログラムも含めて短時間で生成する富士通独自のAutoML技術Fujitsu AutoMLを開発しました。ブースでは本技術の特徴や詳細を紹介しました。
- マルチカメラトラッキング(https://pr.fujitsu.com/jp/news/2023/07/25.html):こちらは、生体認証技術、行動分析技術を組み合わせて、生体認証による本人確認結果を特定エリア内に設置されたカメラで撮影された人物と紐づけることで認証状態を維持しながら、その人物の位置をリアルタイムに推定できる技術です。ブースでは本技術の詳細や想定利用シーン、ユーザに与える価値などを紹介しました。
花田の発表
さて、こちらでは安部に代わりまして、花田が自身の発表の報告をさせて頂きます。
私の発表は、6日18時より、CT21 Software in Consumer Technologies (SCT)のセッションで行われました。
タイトルは「Evaluation of Cache Sharing Method Using User's Store-Visiting History for Large-Scale Biometric Authentication System」です。
生体認証技術は、身体的・行動的特徴を用いて個人を認証するセキュリティ技術です。従来のパスワードやカードに比べ、入力や持ち運びの 手間がなく、高いセキュリティを提供するため、近年ではその利用範囲が拡大しています。例えば、自宅や会社などの鍵や入館カードだけでなく、イベント会場やアミューズメント施設でのチケットや会員証が不要となり、スムーズな入場が可能です。また、コンビニや店舗などでの決済にも利用されることがあります。 生体認証には、1対1の認証と1対Nの認証の2つの使い方があります。1対Nの認証はIDの入力が不要で利用者の増加に対応しやすい一方で、登録されたデータの照合に時間がかかるという課題があります。特に利用者が100万人から数千万人に増加するような大規模な状況では、処理速度やサーバ負荷の増加が課題となります。本発表では、この課題に対する解決策の提案と検証結果について報告しました。
まず我々は簡単な方法としてキャッシュ認証に注目しました。一度ある店舗を利用し認証を行った場合、その店舗にユーザ情報を記憶(キャッシュ)しておき、その記憶されたユーザ情報から優先的に照合処理を行うことで処理時間を高速化します。ただし、その店舗に初めて来店する場合はキャッシュされておらずキャッシュ認証に失敗し、結局全登録データで照合する必要があり認証時間を短縮することができません。つまり一度も店舗を訪れたことのないユーザをどうやってキャッシュ認証で成功させるかが課題となります。
そこで注目したのがユーザの店舗利用特性です。ユーザが利用する店舗はある程度決まっているだろうと仮説を立て、ユーザが来店しそうな店舗同士をクラスタリングによってグルーピングし、ユーザが来店した店舗だけでなく、その店舗と同じグループ内の店舗すべてにキャッシュする(店舗同士でユーザ情報を共有する)ことで、初めて来店する店舗でもキャッシュ認証に成功させることができると考えました。
店舗をグルーピングするにあたって、ユーザが来店しそうな店舗の特徴として、以下の2つに注目し、それぞれにあったクラスタリング手法についてそれぞれ検証しました。
- 地理的に近い店舗を訪れる:k-meansは対象の位置関係をもとにクラスターに分類します。
- 似ている店舗を訪れる:pLSA(probabilistic Latent Semantic Analysis)は利用者の分布の類似度を基に店舗をクラスターに分類します。
評価実験では、この2つのクラスタリングを行った場合と行わない場合の3パターンでキャッシュ認証に成功する確率(キャッシュヒット率:Cach Hit Rate)と平均認証時間(Average Authentication Time[msec])を評価しました。
結果としてクラスタリングしない場合よりもした場合の方がヒット率が約10%向上し、初来店のユーザの3割強がキャッシュ認証に成功したことになります。また処理時間は約23%削減できることがわかりました。
各セッションで座長による選定でベストプレゼンテーション賞とベスト質問者賞がその場で表彰され、花田は惜しくも逃したものの、安部さんがベスト質問者賞を受賞されました。
おわりに
今回初耳、初参加の学会ではあったものの、42回も開催されているということもあり、とても面白く有意義な学会だったと感じました。また、コロナ禍を経て、久しぶりの海外出張、国際会議だったため、少し戸惑いもありながら、国内外の様々な研究者と直に会話・議論できたとは非常に楽しかったです。 今後も自身の場に戻ってしっかり研究をし、その成果を国内外問わず積極的に発表することで、富士通の技術力を世界にアピールしていきたいと思います。