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fltech - 富士通研究所の技術ブログ

富士通研究所の研究員がさまざまなテーマで語る技術ブログ

NeurIPS2020 のワークショップで発表しました

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こんにちは.富士通研究所人工知能研究所の梶谷まり・池祐一・小林健です. 富士通研究所では「データの幾何学的形状」をとらえる位相的データ解析 (トポロジカルデータアナリシス; TDA) を用いて時系列データを分析する機械学習技術の研究開発に取り組んでいます. 今回は, NeurIPS2020 に併設された位相的データ解析に関するワークショップ Topological Data Analysis and Beyond (2020年12月11日開催) に参加し,ポスター発表を行ったので報告します.

なお,TDAに関する富士通研究所の研究成果や応用例について WEB サイト Fujitsu's TDA Technologies にて紹介しています.もしご興味あるかたはこちらの WEB ページも見ていただけますと幸いです.

TDA Workshopの概要

ワークショップ Topological Data Analysis and Beyond は機械学習のトップ会議である NeurIPS2020 の併設ワークショップとして開催されました.このワークショップは富士通研究所とフランス国立研究機関 Inria との共同研究の一環として提案して採択されたもので,世界のTDA研究者と共同で開催しました.

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組織委員の一覧 (ワークショップのWEBページから転載) .メンバーにInriaのFrédéric Chazal先生と富士通研究所の梅田祐平主任研究員が入っている.

発表について (梶谷・小林)

私たちの発表

私たちが投稿した論文はポスター発表として採択され, "Application of Topological Data Analysis to Delirium Detection" というタイトルで梶谷・池・小林が発表を行いました(論文ポスター).この研究は Iowa 大学の篠崎先生との共同研究によって生まれた成果で,せん妄検出にTDAを適用した応用研究です.

せん妄とは注意力や思考力が低下する意識障害で,高齢の入院患者などに発症することがあります.通常,せん妄状態に陥っているかどうかの判定は20チャンネルの脳波計を用いて診断する必要があり,患者にとって負担の大きいものでした.そのため,実用上は20チャンネルではなく,より簡便な1チャンネルの脳波計のデータに基づいてせん妄状態を検出することが望まれます.

私たちの研究では1チャンネルの脳波計から測定したデータに対してTDAを適用し,その結果に基づいてせん妄状態を検出するアルゴリズムを開発しました.具体的には観測された脳波データ (EEG) に対して時間遅れ埋め込みを行い,埋め込んだ点群に対してTDAを適用してせん妄状態か否かをスコアリングして判定します.提案手法の有効性を検証するため,この研究では Iowa 大学の実際の患者のデータを用いて実験を行いました.この実験では,周波数解析を用いる既存の検出法との比較を行い,私たちの提案手法は既存手法と比較して見逃し率を削減できることを確認しました.

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検出性能に関する比較結果.提案手法であるTDA-EEG のAUCが最も大きい.

今回,新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってワークショップのポスターセッションは GatherTown を用いて実施されました.ポスターセッションは日本時間の18:30からおよそ1時間ほど行われ,セッション中およそ50人ほどの参加者がいました.参加者は GatherTown 上のアイコンで表示されるので,オンラインでもどこに人が集まっているかが一目で分かりました.

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当日の発表の様子

当日の発表の様子と感想

梶谷にとっては国際会議もポスターセッションでの発表も初めてで,全て英語だったのでとても緊張しました.説明で言いたいことを上手く伝えられたかは分かりませんが,助けていただきながら終えることが出来ました.参加者のアイコンが近づくたびにヒヤヒヤしていましたが,今までこのような場で発表できる機会はあまりなかったので,参加できたことはとても良い経験になったと思います.関わってきた研究の論文が通って,発表できたことはとても嬉しかったです.

私たちのポスターでは一部いらすとやのイラストを使用していたのですが,「この cute な絵はなに?」とそのイラストに関する質問も出ました.

その他のワークショップの発表(池)

Panel discussion

最初のパネルディスカッション(富士通 DXサービス事業部の山影譲部長も参加)では

  • 新たにTDAを学び始める人にはどのような勉強をすすめるか?・非数学者にはTDAへの参入障壁が高いがどうすれば良いか?
  • TDA計算における計算時間を減らすには今後どのような工夫が必要か?
  • TDA研究の次の領域は何か?
  • 複数パーシステントパラメータを持つパーシステント加群は何に役立つか?
  • 非応用の数学においてもTDAは役立っているか?

などの議題が議論され,これらに対して様々な意見が出されていました.

Spotlight poster

スポットライトのポスターで池が興味を持ったのは以下の二つです:

  • $k$-simplex2vec: a simplicial extension of node2vec(論文ポスター) node2vecを拡張してsimplicial complexをユークリッド空間に埋め込み,機械学習と結び付けやすくする手法を提案していました.
  • Sheaf Neural Network(論文ポスター) Graph Neural Network (GNN) の拡張として提案された新たな手法です.グラフの頂点と辺にそれぞれ特徴量が乗っていて,それらが適切な整合性を満たすという構造(この構造を層と呼びます)を学習するという試みがなされていました.

Poste 論文のリンク

その他のポスターで池が興味を持った研究は以下の二つです:

これらもGNNの拡張としてsimplicial complexを用いて学習するというもので,今後さらに発展する可能性があると考えています.

おわりに

本記事ではTDAワークショップで私たちが発表した研究の概要と,その他興味深い研究についてご紹介しました.梶谷にとって国際会議での発表は今回が初めてで,よい経験を積むことができました.今年はオンライン開催となってしまいましたが,いずれ新型コロナウイルスの感染拡大が終息した際には現地開催の国際会議での発表・聴講ができればと思っています.